奈良の木と向き合う工房の日常
畝傍山のふもと、奈良県橿原市に構える工房には直角2面カンナ盤や超仕上げ機、バンドソー、パネルソーといった木材加工設備がずらりと並んでいる。吉野桧をはじめとする地元の木材を一本ずつ職人が見極め、反りや木目の癖を読みながら加工していく。同じ風土で育った材木は土地の湿度や気温に馴染みやすく、構造材として組み上げたときに狂いが出にくい。住まう工房 秦建築が奈良県産材にこだわり続ける理由は、この相性の良さに尽きる。
個人的には、工房で木の香りに囲まれながら作業する光景がとても印象的だった。自動1面カンナ盤で削り出された桧の表面は目が細かく、触れると滑らかさがはっきり伝わってくる。内装材に使えば室内に自然な木の香りが残り、経年で色味が変化していく過程も楽しめる。化学建材では得られない空気感があるという声は、施主からも少なくない。
1999年創業、大工の手から生まれる構造
1999年1月の創業以来、住まう工房 秦建築は在来軸組工法を軸にした住宅建築を手がけてきた。柱や梁を適材適所に組み上げる伝統技法に加え、最新の耐震技術と断熱工法を積極的に取り入れている。50年、100年先まで住み継ぐことを前提とした設計思想で、メンテナンスのしやすさにも配慮した構造を組む。橿原市を拠点に四半世紀以上にわたって蓄積した施工経験が、その精度を支えている。
新築の現場では、基礎工事の段階から棟梁自身が木材の配置を決めていく。断面寸法や含水率を確認しながら一棟ごとに最適な組み方を判断するため、同じ間取りでも使う材の位置が異なることがある。耐震等級や断熱性能といった数値面でも現代の基準を満たしつつ、木組みの粘り強さを活かした構造は地震時のエネルギー吸収に有利だとされる。こうした判断は、図面だけでは読み取れない現場の感覚に支えられている。
「住まう」に込めた対話型の家づくり
住まう工房 秦建築の屋号にある「住まう」という言葉には、単に住むのではなく、その場所に住み続けるという時間の厚みが含まれている。家族が代々暮らしていける住まいを施主と一緒につくりたいという思いが、この名前の出発点になった。設計の打ち合わせでは施主の要望を聞き取るだけでなく、暮らし方そのものを掘り下げる対話を重ねていく。完成後に「こうすればよかった」という後悔が残らないよう、プランニングの段階で細部まで詰めるやり方を徹底している。
打ち合わせ回数に上限を設けていないという話を聞く施主も多いようで、納得いくまで何度でも相談できる点に安心感を覚えるという声が目立つ。間取りの変更や素材の差し替えといった要望にも柔軟に対応し、図面上の数字だけでは伝わらない生活動線や採光の感覚を模型や現場で確認する場面もある。家を「買う」のではなく「共に創る」という姿勢は、引き渡し後の関係性にまでつながっている。
古民家に新しい時間を重ねる仕事
橿原市周辺には築数十年を超える古民家が点在しており、住まう工房 秦建築はこうした建物のリノベーションを数多く手がけてきた。柱や梁に残る古材の表情を活かしつつ、水回りや断熱性能を現代仕様に引き上げる工事は、新築とは異なる判断力を要する。既存の構造を残すか差し替えるかの見極めには、木材の状態を手で触り、音を聞き、含水率を測るといった職人の感覚が欠かせない。歴史ある建物の風合いと日常の快適さを両立させる仕事が、この工房の得意領域になっている。
ある古民家では、元の大黒柱をそのまま残しながら耐震補強を施し、キッチンと浴室だけを現代の設備に入れ替えたケースがあったという。住み手は「古い部分と新しい部分の境目が自然で違和感がない」と話していたそうで、こうした仕上がりは既存の木と新材の色味や質感を揃える加工技術があってこそ成り立つ。工房に揃った加工設備が、現場での微調整を可能にしている。


